「完成品より、途上品」Becoming is better than being

 ある本の中で、「完成品より途上品」(Becoming is better than being)という言葉と出会いました。60年代によく使われた言葉らしいのですが、どこの国で、どのような意図で使われ始めたのかもよく分かりません。ですが、この言葉から私が受け取ったメッセージはこうです。

          「完成された自分もステキだけど、成長中の自分もステキじゃない?」

 今の子どもたちにも、広く届けたい言葉だと思いました。今回は、「成長」について考察してみたいと思います。

目次

自分を成長させるとは?

 私の「成長」の定義は、「できないことが、できるようになること」です。そのためには「やってみよう!」という考え方が、とても大切になります。つまり、チャレンジをしなければ成長はあり得ないと言うことになります。人が自分で創り出す「やってみよう!」を、※モチベーション(主体性)と言います。ですが、人はなかなか「やってみよう!」と思えません。それが、今まで経験したことのない新しいことであればなおさらです。理由は、チャレンジの背後に見え隠れする「失敗したらどうしよう…。」があるからです。人は、何かにチャレンジする時、この「やってみよう!」と「失敗したらどうしよう…。」を天秤にかけます。

 日本人の子どもたちの多くは、「チャレンジして、失敗することが恐い」と考えているようです。私が7年間、教員(バスケットボールコーチ)をしてきて、子どもたちからたくさん聞いてきた言葉です。子どもたちは、「チャレンジは恐いこと」「チャレンジは、できるだけ避けた方がいい」と感じているようです。しかし、私たち人間は誰もが「チャレンジしたい!」と強く思って生まれてきました。赤ちゃんの頃は、出っ張っているものがあると引っ張ってみたくなるし、ボタンがあれば押してみたくなるものでした。障害の有無にかかわらず、誰もが精一杯の力を振り絞ってハイハイを始めました。私たちは、もともとは生まれながらにして主体的な存在だったのです。

 それが、いつしかチャレンジを避けるようになる。もしかしたら、子どもたちは「失敗は悪いこと」「チャレンジは恐いこと」と社会の中で学んでしまっているのかもしれません。理由は分かりませんが、大人である私もその責任を感じています。繰り返しますが、チャレンジをしなければ成長はあり得ません。ですが、失敗をするかもしれません。私たちは、「失敗に強い脳」を育てていかなければならないのです。では、どうしたら「失敗に強い脳」を育てていけるのでしょうか?私が考えるアイデアは、自分自身の※マインドセットです。私の「マインドセット」の定義は、「ものの見方・考え方を変えること」です。

 人は、ものの見方・考え方を変えるだけで、驚くほど目の前の景色が変わります。つまり、「失敗に対する見方や考え方を変える」ということです。私たちは、つい失敗をネガティブに捉えがちです。理由は、私たちは「失敗は避けるべきもの」としてマインドセットされてしまっているからです。では、失敗に対する考え方を、「こう」変えてみたらどうなるでしょうか?

                「失敗は、成長のために適切に増やすもの」である。

 白熱電球の発明をしたトーマス・アルバ・エジソンも、失敗についてこう話していたそうです。

    「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの上手くいかない方法を見つけただけだ」

 私は、成長のためには、「失敗は必要なもの」だと思います。そして、自分を磨くためにも、失敗を恐れずチャレンジすることが大切なのです。 

      モチベーション(主体性) ×  マインドセット = 自分を成長させるスキル

相手を成長させるとは?

 情報化が急速に進展していることは言うまでもありません。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授によると10年後には電話マーケティング、スポーツの審判、モデル、事務員など約10種の職業が90%の確率で消えると言う論文を発表しています。(THE FUTURE OF EMPLOYMENT2013より)AIと私たち人間の大きな違いは、何でしょうか?私は、人の「心を動かせるか?」「動かせないか?」の違いだと考えています。AIは指示されたことはできますが、人の感情を汲み取り、言葉や行動で人の心を動かすことはできません。これについても、同論文で、小学校教員や看護師、救急救命士などの職業は、10年後も95%の確率で社会に残るとの見解を発表しています。(THE FUTURE OF EMPLOYMENT2013より)

 私たち人間は、相手に影響を与え、その成長をサポートすることができます。ここでは、目の前の相手の成長をサポートする上で大切なことを2つ整理します。前節でも触れましたが、人は「やってみよう!」と言うモチベーション(主体性)により成長していけると述べました。言い換えると、相手に「やってみよう!」と思わせることができなければ、その人の成長をサポートすることはできません。人は、どのような時「やってみよう!」と思えるのでしょうか?私は、「安心してチャレンジできる環境」だと考えています。これを、※「心理的安全性」と言います。この言葉を世に広めたのはGoogleです。Googleは、心理的安全性を「不安や恥ずかしさを感じることなく、リスクのある行動をとることができること」と定義しています。チャレンジする上で、精神的にも身体的にも安心安全な環境でなければ、人は「やってみよう!」とは思えません。ですが、いくら安心安全な場が提供されても、その人自身が「やってみよう!」と思わなければ人は行動に移していくことができません。私たちは、日常生活の中で「やりたいこと」と「やらなければならないこと」の中から行動を選び、生活しています。ここでは「やりたいこと(自分で決めたこと)」、「やらなければならないこと(人から指示されたこと)」と整理しておきます。人がよりエネルギーを発揮できるのは、どちらでしょうか?やはり、「やりたいこと(自分で決めたこと)です。相手を成長させる上で、相手に※自己決定させる場(当事者になってもらう場)が必要なのです。人は、自分で決めたことに対して自然と「当事者意識」をもちます。「当事者意識」については、OECDが2030年までに達成したい教育指針「learning Compass 2030」の中でも、agencyと言う言葉で示し、その価値について発信しています。

 人は、安全安心できる環境で、自分が決めたこと(当事者意識がもてること)でのみ、成長に向けた大きなチャレンジができます。

安心してチャレンジできる場所(心理的安全性) + 自己決定できる場所(当事者意識) = 相手を成長させる場所

教育環境のリデザイン

 現在は、VUCAの時代と言われています。VUCAとは、「Volatility(不安定さ)」「Uncertainty(不確実さ)」「Complexity(複雑さ)」「Ambiguity(曖昧さ)」の頭文字からなる造語で、「あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が困難になった状態」を指します。この社会環境の変化はビジネスパーソンのキャリア選択にも大きな影響を及ぼしつつあります。今までは、将来有望な会社に新卒入社し、定年まで勤め上げることがキャリアの勝ちパターンでした。しかし、VUCAの時代においては、会社そのものの存続も危うく、企業に依存したキャリアはリスクが大きいと言われます。自分で転職するか、もしくは起業をするといったことを考えられる、主体的な人材が求められていくのです。

 

これからの時代は、「自分の頭で考え、行動をしていける人」が活躍する時代です。そして、そのような子どもを学校教育やスポーツ教育で子どもを育てていくことこそ、教育の最上位の目的であると考えます。それにも関わらず、とてもに非効率で非生産的なことをしているのが、今の日本社会です。学校現場では、子どもを縛る様々な校則、先生の言うことを素直に聞く子どもが過剰に評価される教育構造が大きな足枷になっていることは否定できません。スポーツ現場においても、同様のことが言えます。Googleの検索バーに「日本、スポーツ、体罰」と検索すると、70万近い件数がヒットします。先進教育を進めている欧米では、あり得ない数字だそうです。日本のスポーツ界からは、今だに体罰がなくなりません。選手(子ども)をロボットのように扱う風潮と指導が、今なおスポーツ界に根強く残っていることは非常に残念なことです。日本は、学校教育とスポーツ教育の「目的」と「価値」をもう一度問い直すべきです。私は、子どもと大人で共に成長をサポートし合える教育環境を「待つ」のではなく、目の前の小さな世界から創っていきたいです。

           私たちと一緒に「新しい一歩」、始めてみませんか?

目次