スーパーヒーローになる
決勝戦の相手のA高校は、中学時代にジュニアオールスター(県選抜)に選ばれた選手が多く在籍するスター軍団。私たちのチームは、そのような輝かしい実績をもった3年生は1人もいない雑草軍団でした。
私たちは、下剋上を目指す戦国大名だったのです。
試合が始まると一進一退の攻防が続きます。私たちのチームの不安要素は2つ。1つ目は、シューター永井さんの不調でした。相手DFの厳しいマークもあり、得点がなかなか伸びません。2つ目は、序盤でフォワード広田さんが4ファールをしてしまったことです。2人とも、いつものような思い切りのよいプレーが鳴りを潜めていました。
不安要素が表面化したのは終盤でした。残り5分、8点負けていました。この状況で、フォワード広田さんが5つ目のファールを犯し退場してしまいます。いつもなら、広田さんの代わりには3年生の柚木さん、もしくは2年生ながら突破力のある富樫さんが交代します。
しかし先生が触った肩は、梅さんでした。
梅さんがコートに入ると、A高校は戸惑った様子でした。見たことがない選手だったからです。どのような選手なのか?得意なプレーは何なのか?プレーにどのような癖があるのか?A高校には、梅さんの情報が全くなかったのです。なぜかって?梅さんは、3年間公式戦はもちろん、練習試合でも、ほとんどコート上に立つことがなかったからです。
試合が再開です。ボールを受けた梅さん。目の前にDFがいません。永井さんに2人のDFがついたのです。梅さんがジャンプシュートを放ちました。美しい放物線に乗ったボールが、リングに吸い込まれました。

5分間で8得点を挙げた梅さん。
私たちは、美しく描かれた放物線に導かれ優勝しました。
優勝したコート上で先生が胴上げされる様子を、私は2階応援席から眺めていました。みんな泣いていました。先生も泣いていました。梅さんも泣いていました。
私が楽しみにしていた先生の「スーパーヒーロー物語」。
次の年から、1つ物語が増えました。

完