U14 National DCからの学び

 先月、東京で行われた男子U14のNational DC Campの視察をしてきました。HCは、スペインのアレハンドロ・マルチネス氏が担当していました。FIBA U16アジア選手権大会2023」でも指揮をとった経験豊富なコーチです。日本各地から集まった世代を代表する選手たちの前で、語りかけるようにキャンプが始まりました。

代表では、自分の名前よりも「JAPAN」の名前の方が大切である

 今回は、私が視察で見て、感じて、得た学びをご紹介したいと思います。これまで得てきた知見や実践と紐付けて整理していこうと思います。

目次

①練習は流すべきか?止めるべきか?

 コーチをされている方であれば、この問いを1度は考えたことがあるのではないでしょうか。私は、練習を極力止めずに流すコーチングを土台としてきました。背景には「ラーニンング・ピラミッド」の示す1つのエビデンスです。

 コーチが言語化して指導するよりも、選手自ら体験させた方が学びは深まると考えています。学校教育では「アクティブ・ラーニング」として現場に広がりました。今回の視察を経て、私のコーチングの視点が広がりました。

 キャンプの中で、アレハンドロ氏が特に強調して選手に伝えていたことが3つあります。

 ①ボックスアウトの徹底

 ②ルーズボールの徹底

 ③練習間の切り換えの徹底

 視察を通して驚いたことは、日本代表クラスの選手に対しても基本的なファンダメンタルや時間への意識の重要性が説かれていたことです。私が毎日関わっている選手たちへのコーチングと、ベクトルは一緒でした。特にボックスアウトとルーズボールは徹底されていました。コーチ振り返りの中では、「練習を100回止めなければ、100回止める」というアレハンドロ氏の言葉がありました。「流した練習の中で選手にスキル学習を促す場面」と「選手に繰り返させてスキルを固める場面」がはっきりと感じられました。私自身、前者に偏りがちなコーチングをしていたので改めてANDのコーチングについて考えさせられる時間となりました。

Use it or lose it(使わなければ失くすだけ)

 脳科学的にも、「繰り返す」ことで人間の行動パターンが定着していくことが報告されています。もともと人間の脳は、ストレスになることから避けるようにできています。「3日坊主」という言葉がありますが、まさにそれです。しかし、毎日繰り返すことで脳の神経回路が太くなり、その行動が定着していきます。イチロー選手や大谷選手が有名にした「ルーティン」という言葉で社会に広まっています。毎日続けていくとその行動は強化され定着していきますが、続けることをしないと神経回路が細くなっていき、行動と結びつかなくなっていきます。これが脳の原理原則Use it or lose it(使わなければ失くすだけ)です。イメージしやすいのは森にある「獣道」でしょうか。脳科学の知見からも、コーチングの可能性は広がっていきます。

②「日本人の従順さ」がコート上で及ぼす影響

練習後に行われたコーチの振り返りで、私はアレハンドロ氏に1つの質問をしました。

「日本人の従順さは、バスケットボール競技において、どう影響するのか?」

 日本人は試合において、コーチに言われたことを遂行することは得意ですが、自分で判断してプレーを選択していくことは苦手とよく言われます。コート上で選手が行う「判断」を、練習の中でどう磨くのか?との問いに、アレハンドロ氏はこう答えました。

判断は、反復練習から磨いていく

 前述した「繰り返すコーチング」にもつながる言葉でした。アレハンドロ氏は「繰り返す練習に取り組む姿勢」「試合のルールに従う姿勢」といった点では日本人のもつ「従順さ」は有益であると話していました。しかし、試合中のコート上では様々なことが起こります。上手くいかないことをクリエイティブに解決していかなくてはならないバスケットボールにおいて、「状況判断」はとても大切です。日本代表選手に対しても大きな課題の1つに挙げています。ユーロリーグの育成年代では、トランジションDefやクローズアウトの判断処理が徹底した反復練習の中から磨かれ、精錬されていると言われます。

Q クローズアウトの局面を、どう守る?

 クローズアウトの局面は、試合の中で無数に起こります。また、その処理の仕方も相手に応じて変えていく必要があります。①相手が3Pの名手だった場合、②相手が3Pもアタックも無難にこなす選手だった場合、③相手に3Pはないが、アタックの名手だった場合などです。アレハンドロ氏は、クローズアウトDefの局面を信号機に例えてコーチングしていました。

①赤:フライバイ(ボールの軌道に手を入れて飛び込む)

②黄:ワンアーム入れて、一歩下がって守る

③青:下がって守る

 繰り返す反復練習の中にも、選手が「判断する場面」をどうデザインするか?

 コーチングの難しさであり、楽しさでもあります。

③リフレクション(振り返り、内省)

アレハンドロ氏が日本代表選手の大きな課題に挙げていたのが「同じミスを繰り返すこと」でした。バスケットボールに関わらず、できないことができるようになって成長につながります。そしてその成長をしていくのは「選手自身」です。コーチは、そのサポート役でしかないのです。自分で自分を成長させていくためには、「選手自身の振り返り」が必要不可欠です。コーチ振り返りでアレハンドロ氏は「選手自身の振り返りは大きな課題である」と話していました。「なぜ、自分のプレーは上手くいかなかったのか?」「なぜ、自分のプレーは上手くいったのか?」を選手自身が考えることで、こなした練習の先にある成長の「実り」は変わっていきます。
 コーチングの中で、「選手自身がプレーを振り返られる場面」「選手自身がプレーを振り返りたいと思える手立て」の価値を再認識しました。

Googleフォームでの振り返りワーク

 長岡東北中学校男子バスケットボール部では、毎日の練習後に「練習の振り返り」を行っています。チームとしての振り返りではなく、あくまでも自分自身の振り返るための作業です。選手のは強制ではなく、自分自身を成長させていくための1つのツールとして紹介しています。

 2年前は、この振り返りを選手たちに強制していました。ですが、強制にしてしまうと「振り返ること」が目的化してしまいます。目的は「選手自身の成長」です。振り返りは、あくまでも「手段」に過ぎません。選手自身が「振り返りたい!」と思えるようなコーチングを目指していきたいです。

④おわりに

 今回はU14NDCの視察からの学びを、私自身の知見と実践を加えながら整理してみました。最後に、アレハンドロ氏は日本代表選手に求めるものを、①賢くプレーできる選手、②どこからでも攻められる選手、③ボックスアウトできる選手と話していました。日本トップのコーチングを視察できたことは、私自身の貴重な学びとなりました。そしてその学びは、私が毎日関わる選手(子ども)たちにもつながっているものだと強く実感しました。

 これからも学びを積み上げることで、自分自身をアップデートし続けたいと思っています。

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